アスリートがより高いパフォーマンスを発揮しようとしたとき、股関節の働きは非常に重要だと言われています。また、人生100年時代と言われる今、長くQOL(生活の質)を維持していくためには、股関節の機能を保つ必要があるでしょう。運動と股関節にはどのような関係があり、どのような股関節が理想的なのか。医学博士で理学療法士の金子雅明先生と岡崎倫江先生に話を伺いました。
目次
股関節の基本的な構造と働き
股関節は身体の中心近くにある、人体の中で最も大きな関節です。骨盤と、太ももにある大腿骨と呼ばれる大きな骨を繋いでいます。骨盤の両端にある寛骨臼という窪みに、ボールのような形をした大腿骨の先端、大腿骨骨頭が収まる構造になっています。
球関節と呼ばれる自由度が高い関節で、身体を曲げる、脚を前後に動かす、左右に広げる・閉じる、外側・内側に曲げるといった動きに関連し、日常生活の中では、座った状態から立ち上がるとき、立った状態から座るとき、歩くときによく使われています。また身体を支える役割も担っています(金子先生)
現代人と股関節
運動中、とても重要な役割を果たす股関節ですが、十分な可動域がありしっかりと使えている人がいるかというと、そうでない人が大半です。今までに多くの人の身体を見てきましたが、股関節が十分に動いていない人がほとんど。プロのアスリートレベルでも、理想的に動かせている人は多くありません。一方、長く第一線で活躍し続けている選手は、股関節をうまく使えている印象です。(金子先生)
自分の股関節が動いていない自覚がある人は少ないかもしれませんが、なんとなく動かせているけれど本来の役割を果たせていないという状態が一般的です。運動中、股関節が果たす役割は大きいので、多くの人がもったいない状況にあるとも言えるかもしれません(岡崎先生)
どうしてそんな状況が起きるのか。大きな原因として考えられるのが、現代人があまりにも座っている時間が長いということです。筋肉は伸び縮みすることで力を発揮しますが、動かさないでいると衰えてしまいます。筋力は低下し、関節の可動域も狭くなってしまうのです。たとえば、肘を曲げてずっとキープしようとすると凄く大変ですし、少しの間やるだけでも周辺の筋肉が固ってしまうような感覚になると思います。長時間座って、股関節を屈曲させ続けている状態が、いかに不自然なことかがわかるのではないでしょうか。
椅子に座り続けるということは、臀部や太ももの裏側の筋肉はずっとプレスされた状態になります。プレスされているだけでもかなりのストレスですし、数時間プレスし続けた直後に、急に立ち上がって動かそうとしても、なかなかスムーズには動いてくれません。脚を組む癖があったり、仕事中、隣にいる同僚の方を向く時間が長かったりすれば、左右差も生まれます。
また、股関節はさまざまな動きができる球関節ですが、座っているときは、無意識に関節を固めるための筋肉が働いています。そのため、長時間座り続けると、特に臀部の横側はガチガチになってしまいます。なかなか難しいことかもしれませんが、デスクワークの時間を短くする、こまめに立って歩くようにする、というだけでも股関節の状態は改善されると思います(金子先生)
ランニングと股関節
「スポーツのパフォーマンスと関係が深い股関節ですが、もちろんランナーにとっても重要な関節になります。股関節の可動域が狭ければ、当然ですがストライドは小さくなります。可動域の狭さが原因でストライドが小さいところを、スピードを出すために無理に大きくしようとすれば、フォームやバランスを崩すことになります。股関節の動きが悪いのを、他でカバーしようとするので、他の部位に痛みや疲れが出るといったことも起こるでしょう(金子先生)
股関節が動かないことで他の部位にトラブルが出ているランナーの方は、おそらく皆さんが思っている以上に多いと思います。走ると膝が痛い、腰が痛い、肩がこるといった悩みの原因を探ってみると、股関節が動いていなかったというのはよくあります。たとえばランナーに起こることが多いことからランナー膝と呼ばれている腸脛靱帯炎も、膝ではなく股関節に原因がある場合があることがほとんどです(岡崎先生)
最近はカーボンプレートを搭載した反発力が強いランニングシューズを履いているランナーの方が多いのですが、一日中デスクワークをして、お尻や太ももの筋肉をプレスし続けていたところで、突然、反発力の強いシューズを履いて速く走ろうとすると、股関節周辺よりはまだ動く状態にあるアキレス腱などに大きな負担がかかります。仕事終わりに走るという方は、まずは、シューズのレベルを下げて頂いて、股関節周辺が動くようになるまで、ゆっくりとウォーミングアップ、ジョギングをしてもらえたらと思います。
またウォーミングアップとして、動的ストレッチをしているランナーの方は多いと思うのですが、一日中デスクワークをしていたという人には動的ストレッチすら少し負荷が高いと言えます。いきなり動的ストレッチをしても、動かしやすい部位ばかりが動いて、固まって動いてない部位はほとんど動いてないということが起こります。ランニングをするとき、いつも序盤は調子が悪いと感じている人は、おそらく股関節が動いていないのではないでしょうか。
まずは、プレスし続けていたお尻や太ももの裏側の筋肉を自分の手で揉んで、十分にほぐしましょう。椅子の座面とお尻や太ももの間にテニスボールを置いて、コロコロとほぐすのもおすすめです。そして、ほぐした後に手でお尻と太ももをパチパチと叩いて刺激を入れましょう。アスリートがウォーミングアップ中や、試合前にパチパチと身体を叩いているシーンを観たことがあるかと思いますが、あの要領です。ほぐして、叩いて、その後に動的ストレッチを行いましょう。ほぐして、叩く、をウォーミングアップの前に加えるだけで、トレーニングのパフォーマンスアップやケガ予防になります。
もし余裕があるのならデスクワークの合間に、テニスボールやタオルを股間に挟み、20%程度の力で30秒くらいキープするエクササイズを取り入れてみてください。座ってやっても、立ってやっても構いません。(金子先生)
股関節周辺のお尻や太ももの筋肉は大きな筋肉なので、正しく使えれば当然ランニングの効率は良くなります。逆にそこが使えないと小さな筋肉が頑張り過ぎて、つってしまったり、アキレス腱炎や足底筋膜炎などに繋がることもあります。(岡崎先生)
人によっては走行距離を増やすよりも、股関節を動かせるようなることのほうがパフォーマンスアップ、記録向上に繋がると思います(金子先生)
ゴルフと股関節
ゴルフはランニングと違って下半身が止まっている時間が長いのですが、股関節が重要な点は共通しています。アドレス姿勢に入った際に、股関節の上で骨盤が動かせるかどうかが一つのポイントになります。股関節の可動域が十分にあるかということですね。
股関節の柔軟性がないと、短いシャフトのクラブを使うときに、腰を落とすのではなく、肩を前に出して距離を合わせようとします。そうすると背中が丸まり、そのために胸椎が動かず、バックスイングがスムーズにできないといったことが起こります。それから、下半身を安定させるための臀部など股関節周辺の筋力も大切です。下半身が疎かになると、上半身がリラックスできず、滑らかなスイングができません。
また、ゴルフのスイングでは捻りの動作が大切で、その捻りを生むのは主に股関節、胸椎、足関節になります。捻ることで、エネルギーを貯めて、力を出すのですが、股関節の捻りの動きを上手くできないと、ヘッドスピードの速さは出ませんし、パワーも半減してしまうでしょう(金子先生)
股関節が十分に動いていない場合、ケガも多くなります。プロゴルファーのようなゴルフの理想的なフォームは、股関節が動くことで可能になります。股関節が動かないのに、フォームの見た目を真似しようすると、ほかの部位が無理をすることになります。その結果、肩や肘を痛めたり、脇腹を肉離れしたりといったことにも繋がります(岡崎先生)
手軽にできる股関節ケア
日常でできる股関節を動かす運動として、椅子から立ち上がる際に、鼠蹊部に手をあてて、その手を太ももとお腹で挟み込むようにしてから立つのがおすすめです。ついつい、手に膝をついてヨイショと立ち上がったり、肘掛けを押して腕の力を使って立ったりしてしまいがちですが、股関節の可動性を保つためにも立ち上がるときに股関節をしっかりと使いましょう。もちろんなるべく椅子に座る時間を短くすることも大切です。
そして「デリックテック」のパンツを身につけることも、股関節・骨盤周辺のケアおよびサポートに有効です。人は皮膚からの感覚センサーによって筋肉を活動させるべきか、緩めるべきかの指令を得ています。「低筋圧理論」に基づいて開発された「デリットテック」のパンツは、皮膚感覚センサーの働きを利用して、股関節・骨盤周辺の筋肉を可動させます。また、低圧なので、運動時だけでなく、日常生活中も就寝中も身につけることができます。24時間365日身につけることで、骨盤位置や身体のバランスが整うはずです(金子先生)
「デリットテック」のパンツは形を固定するものではなく、筋肉が正しく連動して動くことをサポートするものです。はいてすぐに変化を感じないもしれませんが、穿き続けることで股関節の動かしやすさ、身体の調子の良さを実感できると思います(岡崎先生)