今年は5月ごろから10月中旬まで暑さが続き、秋をスキップしたかのようないきなりの気温低下。元来であれば、夏の暑さが和らいだところで徐々に気温が低下していき、これに身体が自然に対応して冬を迎えることができていましたが、今年はそうはいきそうもありません。
この寒暖差の影響で体調を崩したり、不調を訴えたりする人も増えているようです。これをリカバリ―するにはどうしたらいいのか、理学療法士の岡崎倫江先生と金子雅明先生に教えていただきました。
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筋力低下の原因は今年の暑さにあった!
近年の暑さは尋常ではないため、生命の危険から身体を守るために、私たちが優先しなければいけなかったのが暑さ対策でした。熱中症にならないよう屋外での活動はできるだけ控えたり、涼しくならないため朝夕でも冷房が欠かせなかったり……。もちろん、この対策に間違いはありません。
しかしこの結果、発汗する運動を控えるのは当たり前。これまでであれば「ひと駅分歩こう」とか、「買い物の途中に遠回りしよう」など、日常生活の中にあったちょっとした運動チャンスを逃してしまい、活動量が一気に減りました。当然、筋力は知らず知らずのうちに低下。この状態で座りっぱなしだったり、動かなかったりしたため、筋肉はさらに細くなっている可能性が。
とはいえ、普段生活しているうえで、筋力低下をあまり実感されていないかもしれません。しかし、朝起きたときから身体がだるい、いまいちやる気がでない……から始まり、お腹がすかないなど、さまざまな不調が身体に現れ出します。これらは単なる疲れと捉えがちですが、実は筋力が落ちたサイン。特に、座りっぱなしでいることで、腿裏が潰され、筋肉が働きづらくなることで、腿の裏側の筋肉であるハムストリングスからヒップにかけて緩んでしまいます。
そしてもう1つ、筋力低下のサインは起床時。以前であれば、横向きになって起きたり、脚の反動を使って身体を起こすことができていたかと思います。しかし、筋力が低下してしまうと、起きるときにうつ伏せに近い形をとり、両手で身体を支えるようにして「よいしょ」と持ち上げるようになります。
また、寝姿勢も筋力低下を見極めるポイント。これまではしていなかったのに、両手を上げて眠るようになっていたら要注意。肩回りの筋肉が固まっているため、両手を下ろしておくことができなくなってしまったのです。こうなっていたら、身体がガチガチになっていると思ってください。
筋力低下のチェックPOINT
・疲れが取れず、朝から身体がだるい
・やる気がでない
・食欲がわかない
・起床時、うつぶせから起きる
・腕を上げて寝る
いきなりの運動はNG。まずは身体を緩めることが大切
暑さがやわらいだ今、久しぶりに身体を動かしてみるものの、思うように動けず、驚かれるのではないでしょうか? 身体が動ける準備をしていないのに無理をしてしまうのは、怪我の原因になったり、身体に余計な負担をかけたりしてしまいます。
まずは筋肉量が低下してしまっていることを認識し、身体を緩めるストレッチを行ってください。
【身体を緩ませる3ストレッチ】
POINT1 お腹のリセット
暑いとお腹を丸め、ダラッとした姿勢を取って身体を固めてしまいがち。すると、お腹が硬くなってしまいます。まずはお腹を緩めることからスタート。
1. 椅子に浅く座る。
2. 親指を除いた4本の指を肋骨に添わせるようにしてぐっと差し込む。指が入っていかないときは、背中を丸めるようにすると入りやすくなる。
3. 指を差し込んだまま、「いやいや」をするように上半身を左右にゆっくり10~15回ほど振る。
4. 少しずつ指の位置を移動させながら、触れる部位を増やしていく。
いつやっても大丈夫ですが、朝行うと、1日動きやすくなりますし、食後落ち着いたところで午後や寝る前に行うことで、身体のリセットになります。最初は指が入らなかったとしても、毎日繰り返していくことで、指の入り方が変わり、緩んだことを実感できます。
POINT2 肋骨のリセット
お腹ともう1つ固まってしまうのが脇下。背骨が丸まっていると肋骨部分が一緒にロックされてしまいます。すると、呼吸もしづらくなりますし、背骨を伸ばしにくくなって真っすぐな姿勢を保つことができなくなってしまいます。
1. 椅子に浅く腰掛け、力まずに左手を上げて、ひじを曲げる。
親指を除いた4指を肋骨の脇に置き、骨に指先を引っ掛ける感覚で前方にギュッギュッと動かす。
2. 少しずつ指をずらしながら肋骨脇部分を緩めていく。このとき、皮膚を動かすのではなく、筋肉を動かすイメージで約20秒。
3. 反対側も同様に。
POINT3 お尻のリセット
お腹、肋骨と緩めたら、最後は、全体重を受け止めて固まってしまうお尻を緩めます。縮こまっている股関節を伸ばすのが目的です。
1. 椅子に浅く腰掛け、伸ばしたいほうの脚の足首を反対側の脚の上にのせる。身体が硬い人は無理のない体勢で。
2. 身体が丸まらないよう背骨を起こし、乗せたほうの脚の腿の付け根を20秒くらい真下に押して、お尻の裏を伸ばしていく。このとき、膝を押してしまうと背中が丸まってしまい、身体が伸びにくいポジションに入ってしまうため押す位置を気をつけて。
身体を動かすための準備エクササイズ
丸まり固まったお腹、肋骨、お尻をしっかり緩めた後は、動ける身体を作るための準備運動をします。ご用意いただくのはバスタオル1枚。
1. バスタオルを縦に半分に折り、さらに2回折って細長くし、床に横置きしてこの上に立つ。このとき、バスタオルの後ろの端が外くるぶしから指1~2本分前になるように立つのがポイント。足幅はこぶし1個分くらいを目安に。
この状態で、足裏の筋肉を出してしっかりと1分間踏み込む。
フラついたりしたら、下半身の力が足りなくなっていたサイン。慣れてきたら、時間や回数を少しずつ増やしていってください。
外出時にもできるワンポイントエクササイズ
家やオフィスでエクササイズができないときは、通勤や電車に乗るときも身体を動かすための準備エクササイズができます。
POINT1
つり革を持つときは、指に引っ掛けたり、手全体で握ったりせず、小指、薬指、中指の3指で握るようにすると、お腹の力が抜けないため、肩甲骨、腕、お腹の連動性が生まれる。
POINT2
3指でつり革をつかんだまま、肘を下げようとした状態で20秒キープ。背中にある広背筋に刺激が入るため、軽いエクササイズになり、背筋が伸びやすくなる。
冷えや寒さから身を守るには筋力が重要
これまでであれば徐々に身体を慣らすことができた季節の変わり目ですが、今年のように寒暖差が激しいと、代謝が落ちたまま冬を迎えることになってしまいます。すると、体温が維持できなくなるため、寒さに弱く、冷えに悩まされるようになってしまいます。
冷えというと、女性に多く、末端冷え性をイメージされるかもしれませんが、筋力がない状態での冷えは、もっと全身で寒さを感じるようになってしまいます。そうすると、身体は熱を発生しようと震えるなどして全身力を入れてしまので、さらに筋肉を固めてしまうことに。これがコリや痛みの原因になってしまいます。つまり、筋力が低下した身体は、不調スパイラルを引き起こしてしまうというわけです。
ここで大切なのは、冷えや寒さを防寒することだけではなく、まずは固まっているところを取り除くこと。身体を1回緩め、動かせる準備をした後に、軽い運動を取り入れ、筋肉を活性させることが大切になってきます。
運動というと、ランニングや筋トレなど、激しい動きを想定する人が多いのですが、今はそれをやる時期ではありません。まずは弱り切った身体を戻し、調子よく日々過ごせるようにすること。そのためには、「効いているのかな?」くらいの軽い動きを、毎日数分でもいいので続けてください。たとえ、午前中に1分、午後に1分でも、続けられることのほうが大切。
2週間を身体の調整期間と捉え、身体の機能が戻って来るのを感じてください。これができたところで、「少し歩いてみようか」など、もう少しだけ負荷を足していき、徐々に時間や身体を動かす量を増やしていってみてください。
筋力を取り戻して、太りにくい身体を手に入れよう
もう1つ、筋力低下した身体のままでいると太りやすくなってしまいます。意外に思われるかもしれませんが、実は夏は太りやすい季節。なぜなら、外気温が高いと身体は熱を作らなくてもいいため、もともとの代謝が低くなっています。これまでであれば、徐々に気温に身体を適応させて代謝を高めていけますが、今年のように気温が高いまま秋を迎えると代謝は低いまま。なのに、“食欲の秋”とばかりに暴飲してしまえば、さらに太りやすくなってしまいます。しかも、筋力低下で肋骨が開いているため胃の容積が大きくなっているので一気に太ってしまう可能性も。
まとめ
ここでも大切になってくるのが筋力。日常を過ごすための身体を支える筋力を取り戻すことで、姿勢が正され、動ける身体となり、本来あるべき姿へと戻ります。すると、朝のダルさや、不調が軽減していくのを実感できるはずです。