妊婦になると、身体の変化に戸惑うことも少なくありません。身体の節々に痛みを感じることもあり、特に胎児を守る骨盤に痛みが生じると、不安になる女性も非常に多いです。「医師に相談するべきか」「何か対策はないか」など、悩みは尽きません。そこで本記事では、妊婦の骨盤の痛みについて徹底解説します。妊娠時期と部位別の原因を、詳しく解説しますので、自分の症状と照らし合わせながら読み進めてみてくださいね。
目次
妊婦の骨盤の痛みの要因
妊娠中の骨盤の痛みには、大きく分けて5つの要因が考えられます。本項では、妊娠中に骨盤の痛みが生じる要因5つを解説していきましょう。
ホルモン(リラキシン)分泌による身体の変化
妊娠中の骨盤の痛みは、ホルモン分泌による身体の変化が要因です。妊娠すると、女性の身体には、これまで分泌されていなかった特別なホルモンが分泌されるようになります。女性ホルモンの一種である、リラキシンと呼ばれる卵巣ホルモンです。一般的に、妊娠3カ月(12週目)前後から分泌され始めます。
リラキシンは、出産をスムーズに行えるように、骨盤の関節、周辺の筋肉、周辺の腱を緩ませる働きを持つホルモンです。骨盤や、骨盤周辺の筋組織が緩んだ状態で生活すると、当然ながら身体に大きな負担がかかります。腰痛を感じるようになったり、肩や首が痛くなったり、骨盤の痛みも生じるようになるのです。
ホルモン(オキシトシン)分泌量による身体の変化
妊婦になると、これまで分泌されていたホルモンの量が増え、それにともなって身体に変化が表れます。代表的なホルモンは、幸福ホルモンとも呼ばれるオキシトシンです。オキシトシンは、陣痛の誘発、産後の出血を最小限に抑えるなどの役割を持っているとされています。妊娠初期から後期にかけて徐々に分泌量が増え、産後3カ月~6カ月以内に正常に戻るのが一般的です。
このオキシトシンの分泌量によって、骨盤や骨盤周辺に痛みを感じる場合があります。オキシトシンは子宮の収縮を促す作用があるため、特に妊娠後期にキュッと締め付けられるような不規則な痛みを感じる女性も珍しくありません。また、オキシトシンをはじめ、リラキシンなどのホルモン分泌量は、人によって違いがあり、妊娠機関によっても異なるものです。妊娠初期から急速に分泌量が増える人もいれば、妊娠後期に近づくにつれ徐々に上昇していく人もいます。こうしたホルモンの分泌量によって、身体に痛みを感じる人と、ほとんど痛みや不快感がない状態で出産を終える女性もいるのです。
姿勢の変化
妊娠による姿勢の変化によって、骨盤に痛みが生じる場合があります。妊娠時に姿勢が変化する理由は、体重の増加、重心の変化、痛み等の不快感が要因です。妊娠すると、下記理由から体重が7kg~15kg程度増加します。
〇胎児を守るために皮下脂肪がつきやすくなる
〇出産に備えて血液量が1~1.5kg程度増加する
〇出産に備えてエネルギーを蓄える
〇ホルモンバランスの変化から食生活が偏るまたは変化する
こうした理由から体重が増加しやすく、それにともなって姿勢の変化による痛みが生じる場合があるのです。また、身体の前方にのみ重さが加わることで重心も変化します。上半身と下半身のバランスを保つ骨盤に、痛みが生じやすいのもこのためです。ちなみに、妊娠中の体重増加は、決して異常なことではなく、妊婦であれば誰しもが体験します。近年では、出産後の体型を気にし、妊娠中の体重増加を抑えようとする女性もいますが、過度な体重への意識は出産時のトラブルや産後のトラブルの要因となりかねませんので、注意が必要です。
臓器の圧迫
妊娠中は、腹部のふくらみによって周辺臓器が圧迫され、骨盤等に痛みを感じる場合があります。膀胱、胃、腸、肺などが圧迫され、生理痛のような痛みや不快感を感じるのです。また、子宮が大きくなるにつれて、子宮を支える円靭帯が引っ張られるまたは、圧迫させることで生じる痛みもあります。
妊娠中の臓器の圧迫による不快感や痛みは、快適な状況ではありませんが、一般的な妊娠症状の一つです。そのため、過度に不安視する必要はありません。しかしながら、臓器の圧迫等によって、痛みや不快感が増加する場合もあり、人によっては歩けないまたは生活ができないほどの不調に見舞われることもあります。
病気
妊娠中に、骨盤や骨盤周辺が痛む要因として、病気等の可能性も考えられます。妊娠中に生じる病気については、下記のとおりです。
〇切迫早産
〇骨盤内うっ血症候群(PCS)
〇骨盤内炎症性疾患(PID)
〇胃腸炎
〇便秘
〇膿瘍
〇腫瘍
〇性感染症
〇妊娠高血圧症候群
上記以外にも、様々な病気が考えられますので、早急に婦人科で検査を受けるようにしましょう。婦人科を受診する目安は、下記のとおりです。項目に当てはまる場合は、受診を検討する必要があります。
〇歩けないほどの痛みを感じる
〇性器からの出血
〇めまいや立ちくらみが頻発する
〇2日以上の発熱(37.5度以上)
〇下腹部の違和感・冷感
痛みを伴わない下腹部の違和感だったとしても、病気等のトラブルが懸念されます。妊娠中は、些細な変化でも見逃さないようにし、万が一に備えて病院を利用できる環境を整えておくことが重要です。
妊娠時期&部位別の痛みの原因6選
本項では、妊娠時期&部位別の痛みの原因について解説していきます。懸念される病気や、病院を利用するべきタイミング等もご紹介しますので、ぜひ参考にしてくださいね。
①妊娠超初期の骨盤の痛み
妊娠超初期と呼ばれる時期に、骨盤の痛みが生じる場合があります。妊娠超初期とは、妊娠(着床)から2週間~3週間の時期です。生理痛と近い不快感のため、気付かない人も少なくありません。
妊娠超初期に骨盤が痛む原因として、便秘や下痢、頻尿が考えられます。分泌されるホルモンの種類と量が変化し始め、それにともなう身体の変化です。また、バランスの乱れによる胃痛やお腹の張りが原因で痛みを感じることもあります。妊娠の確認が取れていない人は、できるだけ早期に確認するようにしましょう。ただし、市販の妊娠検査薬は生理予定日より1週間後(妊娠4週目前後)から使用できます。それ以前に使用しても、正しい結果が得られない可能性があるため、時期には十分に注意しましょう。
②妊娠初期の骨盤の痛み(左)
妊娠初期に骨盤の左側のみが痛い場合は、下記原因が考えられます。
〇骨盤の緩み
〇靭帯や関節の緩み
〇子宮の変化
妊娠初期になると、リラキシン等のホルモンが分泌され、骨盤や周辺の関節、靭帯等が、徐々に緩みやすくなっていきます。妊娠前の身体から変化する過程で、骨盤の左側のみに痛みが生じている可能性があるのです。また、妊娠前の骨盤の歪みも関係している可能性があります。妊娠前の骨盤が前後左右に傾いている場合、妊娠後も特定の部位に負担がかかり、痛みの原因になるのです。
③妊娠初期の骨盤の痛み(右)
妊娠初期に骨盤の右側のみが痛い場合は、下記原因が考えられます。
〇骨盤の緩み
〇靭帯や関節の緩み
〇子宮の変化
左側のみが痛い場合と、同様の理由です。分泌されるホルモンの種類や量が変化する妊娠初期は、ともなう身体の変化によって痛みを感じやすくなります。特に骨盤は、子宮が膨らむ影響を受けやすく、痛みが生じやすいのです。ちなみに、妊娠中の子宮の膨らみについて、左右均等に大きくなると考えている人がいますが、必ずしもそうではありません。子宮は、左右どちらか一方が大きくなることも一般的です。左右どちらかに膨らんだ子宮が骨盤や、円靭帯を圧迫し、一部分のみが痛くなることも珍しくありません。
④妊娠中期の骨盤の痛み(左)
妊娠中期に骨盤の左側のみが痛い場合は、下記原因が考えられます。
〇臓器の機能低下(胃、膵臓、脾臓)
〇筋肉の左右差
〇姿勢の左右差
〇病気の可能性(虫垂炎)
身体の左側には、胃、膵臓(すいぞう)、脾臓(ひぞう)などが存在します。食べすぎや過度なストレスによって、これら臓器がダメージを受け、左側のみに痛みが生じている可能性があります。また、筋肉の左右差も痛みの原因として考えられるため覚えておきましょう。身体の右側と左側で筋肉量が異なる場合、筋肉量の多い側に負担が集中します。負担が集中した筋肉は疲労によって硬化し、痛みの原因になってしまうのです。妊娠前の姿勢を思い出し、右側・左側どちらか一方に偏りがなかったか思い出してみるといいでしょう。
⑤妊娠中期の骨盤の痛み(右)
妊娠中期に骨盤の右側のみが痛い場合は、下記原因が考えられます。
〇臓器の機能低下(肝臓、胆嚢、大腸)
〇筋肉の左右差
〇姿勢の左右差
〇病気の可能性(水腎症)
身体の右側には、肝臓(かんぞう)、胆嚢(たんのう)、大腸(だいちょう)が存在します。大腸は腹部を周回するように右側にも広がっているのですが、S状結腸(えすじょうけっちょう)と呼ばれる部位が左側に存在し、便秘やガスだまり、消化器系の異常による痛みが生じやすい場所です。
また、痛みの可能性として、病気も考えられます。水腎症(すいじんしょう)は妊娠中に生じやすい病気の一つであり、プロゲステロン(ホルモン)の影響や子宮による圧迫が要因です。病院のエコー検査で発見することができます。
⑥妊娠後期の骨盤の痛み
出産が間近に迫る妊娠後期は、骨盤や腰、下半身全体に不快感を感じることも珍しくありません。出産に備えるため、子宮、骨盤、靭帯等が緩みやすく、また大きく膨らんでいるためです。チクチクとした痛みや、圧迫される不快感が生じる場合は、できるだけ安静に過ごすようにしましょう。
もしも、歩けないほどの痛みを感じたり、出血等が見られたりする場合は、迷わず受診が必要です。痛みが激しくなってからでは、より一層動けなくなる可能性があります。
妊婦の骨盤の痛みには様々な原因がある
妊娠中の女性の身体は非常にデリケートであり、変化も激しい時期です。そのため、骨盤や骨盤周辺に痛みが生じやすくなります。骨盤の痛みには、妊娠中の一般的な要因もあれば、病気等のトラブルも関係しているため、適切な判断が必要です。病院を受診するべきか判断に迷った際は、本記事を参考にしつつ婦人科を頼るようにしましょう。